群馬県は、関東の北西に位置する自然と歴史の宝庫である。
世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」に象徴される近代日本の産業史から、特別天然記念物の尾瀬湿原に代表される雄大な自然景観、さらには草津・伊香保・四万など日本を代表する名湯まで、観光資源は多岐にわたる。
赤城山・榛名山・妙義山の上毛三山は古来より人々に親しまれ、三大奇景や三大下り宮といった日本を代表する称号を持つ名所も数多い。
桜名所百選や滝百選、百名城にも複数選出されており、四季を通じて旅人を惹きつけてやまない。
本稿では、群馬県の世界遺産から名勝・天然記念物・百選の名所、さらに名刹と温泉地を詳しく紹介し、地図を片手に巡るべき観光地を体系的にまとめる。
群馬県の名所大全──世界遺産・富岡製糸場から尾瀬湿原。桜百選・滝百選・百名城と三大奇景妙義山、名湯草津を歩く定番と穴場

世界遺産──富岡製糸場と絹産業遺産群の歴史的価値
群馬県で世界遺産に登録されているのは「富岡製糸場と絹産業遺産群」である。
明治5年(1872年)に建設された富岡製糸場は、日本初の本格的な器械製糸工場であり、フランス人技師ポール・ブリュナの指導のもと、西洋の技術と日本の労働力が融合した近代産業の象徴だった。
蚕の飼育から繭の貯蔵、製糸の工程までを一貫して行う施設群は、絹が当時の日本の最大輸出品として世界市場で重要な役割を果たしたことを物語る。
富岡製糸場
敷地全体は国の史跡に指定され、繰糸場や繭倉庫は国宝や重要文化財に指定されている。
明治以降の日本の工業化を牽引した功績から、2014年にユネスコの世界文化遺産に登録された。
戦後も保存活動が続けられたことで往時の姿をよく留め、煉瓦造りの建物群は今も訪れる人々に産業遺産の重みを伝えている。
この製糸場を中心とした遺産群には、養蚕農家や関連施設も含まれており、群馬が近代絹産業の中心地であったことを実感できる。
名勝・日本百景・天然記念物・特別史跡──自然美と歴史遺産の共演
群馬県は自然と歴史の両面で全国的に価値の高い資産を誇る。
日本百景には菅沼、赤城山、尾瀬沼、妙義山の4か所が選出されている。
菅沼は透明度が高く、複雑に入り組んだ形状が特徴の沼で、本州屈指の美しさを誇る。

赤城山は榛名山、妙義山と並ぶ「上毛三山」の一つで、カルデラ湖の大沼や覚満淵といった景観とともに四季折々の表情を見せる。

妙義山は鋭い岩峰が連なる奇岩の山容が特徴で、「日本三大奇景」の一つに数えられる。

尾瀬沼は県北部、福島県とに跨ってある尾瀬地域の沼で、沼の南側が只見川(阿賀野川)と利根川水系の分水嶺である。
上述の尾瀬沼のある尾瀬地域は、「尾瀬」の名称で特別天然記念物に指定されている。
日本有数の湿原であり、高地にある盆地状の高原で、湿原特有の植物群落など貴重な生態系が広がっている。

また、群馬県には「浅間山溶岩樹形」という希少な特別天然記念物もあり、噴火の際に樹木が焼け抜けた跡がそのまま岩の中に残っている。
歴史遺産としては「上野三古碑」と総称される金井沢碑、多胡碑、山上碑が特別史跡に指定されている。
金井沢碑は奈良時代の天地への誓願の旨が記された碑で9行112文字が刻まれており、多胡碑は奈良時代に多胡郡が設置された際の記念碑とされる。
いずれも奈良時代の碑文を刻んだ石碑で、日本の文字文化や政治史を伝える重要な資料である。
山上古墳
さらに、国の名勝として吾妻峡や三波石峡、吹割の滝、草津温泉湯畑、館林のつつじが岡公園などが指定されており、自然美と文化的景観が調和した名所が数多い。


一之宮貫前神社は「日本三大下り宮」のひとつであり、階段を下って参拝する独特の社殿配置が印象的である。

百選──桜・城・滝に輝く群馬の名所
群馬県は日本百選にも多く選ばれている。
桜名所百選には桜山公園と赤城南面千本桜の二か所がある。
桜山公園は冬桜で知られ、11月下旬から12月にかけて紅葉と桜の共演が楽しめる。
春にはソメイヨシノも咲き誇り、一年を通じて花を楽しめる稀有な場所である。

赤城南面千本桜は赤城山の南斜面を通る道路沿いに1,400本の桜並木が続き、桜のトンネルを車で走り抜ける体験は春の群馬を象徴する風景だ。

滝百選には常布の滝、吹割の滝、棚下の不動滝の三つが選ばれている。
常布の滝は草津町にあり、黒と赤の岩肌に緑が映える40メートルの直瀑で独特の景観を作る。
吹割の滝は「東洋のナイアガラ」と呼ばれるほど迫力があり、河床の割れ目に流れ落ちる独特の形状で観光客を惹きつける。

棚下の不動滝は裏見の滝として知られ、滝裏に祀られたお堂を訪れることができる。
棚下不動の滝
城郭では、金山城と箕輪城が日本100名城に指定されている。
金山城は戦国期の山城で、石垣や堀切の遺構が良好に残る。

箕輪城は武田信玄の侵攻を受けた歴史を持ち、戦国時代の攻防を物語る。
続日本100名城には岩櫃城、沼田城、名胡桃城が選ばれ、真田氏ゆかりの城としても知られる。
名刹と名湯──古社寺と天下の名泉を堪能する
群馬県は日本有数の温泉県である。
特に草津温泉は「日本三名泉」に数えられ、湯畑を中心に広がる温泉街は今も国内外から観光客を集める。
湧出量は単一源泉として日本一を誇り、泉質は強酸性で殺菌効果が高く、古来より「恋の病以外は治る」と謳われてきた。

兵庫県の有馬温泉や岐阜県の下呂温泉とともに「三名泉」、「天下の三名泉」とされ、江戸時代後期以降何度も作られた温泉番付の格付では、当時の最高位である大関が定位置であった。
現在も日本を代表する温泉街の一つで、温泉街の中央に位置する湯畑は国指定の名勝となっている。
伊香保温泉は石段街で知られ、黄金の湯と白銀の湯という異なる泉質が楽しめる。
文人墨客に愛され、歴史情緒あふれる街並みが続く。

四万温泉は「草津の仕上げ湯」と呼ばれ、飲泉による効能も知られている。
透明度の高い青い湯が特徴で、自然に抱かれた静かな環境が魅力だ。
さらに法師温泉は、木造建築の大浴場「法師乃湯」が名物で、鹿鳴館風の趣を残す一軒宿として全国に知られている。

古社寺では、前述の一之宮貫前神社のほか、榛名神社や妙義神社など、上毛三山の山岳信仰と結びついた社寺がある。
奇岩に囲まれた境内や荘厳な社殿は、自然と信仰が一体となった群馬ならではの景観を作り出している。
名刹と名湯を巡る旅は、心身を癒すと同時に群馬の精神文化に触れる体験となる。
その他──四季の花と文化を楽しむ群馬の魅力
群馬県にはその他にも多彩な観光資源がある。
館林市のつつじが岡公園は国の名勝に指定され、江戸時代から続くツツジの名所として知られる。
数千株に及ぶツツジが咲き誇る春の景観は圧巻である。
渋川市の伊香保グリーン牧場やみなかみ町の利根川源流域など、自然体験型観光地も充実している。
冬にはスキーリゾートとしても発展し、尾瀬や草津周辺はウィンタースポーツの拠点となる。
さらに群馬は上州名物として、焼きまんじゅうや水沢うどんといった食文化も旅の楽しみを広げる。
観光とグルメ、自然と文化が融合する群馬は、一度訪れれば再び足を運びたくなる奥深さを持つ県である。


(外部リンク)群馬県のホームページ
(外部リンク)群馬県観光協会「ググっとぐんま公式サイト」
















