関東の北部に位置する栃木県は、古来より信仰と自然、そして温泉文化が融合した土地である。
世界遺産「日光の社寺」に象徴されるように、悠久の歴史と壮麗な建築美を誇る名所が多く、また中禅寺湖や華厳の滝など日本を代表する絶景が点在する。
加えて那須高原のリゾートや鬼怒川・塩原・日光湯元といった名湯、さらには足利氏ゆかりの史跡や花の名所も多く、四季を通じて観光客を惹きつけてやまない。
本稿では、栃木県の観光地・名所・名刹・百選を地図とともに詳しく紹介する。
栃木県の観光名所と名刹、定番と穴場─世界遺産と名湯と文化。日光・鬼怒川・塩原・那須・足利|絶景と神秘と歴史と自然を巡る

世界遺産──「日光の社寺」が語る日本の信仰と美の象徴
栃木県を代表する世界遺産といえば、1999年に登録された「日光の社寺」である。
これは日光東照宮、日光二荒山神社、日光山輪王寺の二社一寺から成り、17世紀初頭の建築技術と装飾美を今に伝える世界的遺産である。
日光東照宮は江戸幕府初代将軍・徳川家康を祀る神社で、極彩色の彫刻や精緻な装飾が施された「陽明門」は日本建築の粋を集めた名建築だ。
「見ざる・言わざる・聞かざる」の三猿や、眠り猫の彫刻もあまりに有名である。
日光東照宮陽明門
輪王寺は奈良時代に創建された天台宗の古刹であり、徳川家光を祀る「大猷院霊廟」は壮麗な装飾美で知られる。

二荒山神社は東照宮に隣接する神社で、本社は二社一寺の最奥に位置している。
創建は767年に男体山の神を祀る祠が建てられたことが始まりとされるが、それ以前から信仰対象だったことが、各種痕跡や遺跡からわかっている。
御神体は男体山、女峰山、太郎山の三山としている。

この「日光の社寺」は、日本の宗教建築・装飾美・自然との調和を体現しており、「神仏習合」という日本独自の精神文化を象徴する世界遺産といえる。
日光山内の杉並木を歩けば、時代の厚みと霊気が肌に感じられるだろう。
名勝・天然記念物・日本百景──華厳の滝と中禅寺湖の神秘
栃木県は、日本を代表する自然景観の宝庫である。
中でも、日光市の「華厳の滝」は日本三名瀑の一つに数えられる名瀑だ。
高さ97メートルの直瀑で、男体山の噴火で生じた断崖を一気に流れ落ちる姿は圧倒的な迫力を誇る。
四季折々に色を変える滝の背景は息をのむほど美しく、秋の紅葉期には絵画のような絶景となる。

華厳の滝の上流に広がる「中禅寺湖」もまた、日本百景に選ばれている。
湖は男体山の噴火によってせき止められた火山湖で、標高1269メートルに位置する。
湖面に映る男体山の姿は荘厳で、日光観光の象徴的な風景である。
湖畔には日光二荒山神社中宮祠が鎮座し、古くから山岳信仰の聖地として崇められてきた。

さらに、栃木県には特別天然記念物が二件指定されている。
一つは「日光杉並木街道附並木寄進碑」である。
全長35.4キロメートルにおよぶ杉並木は世界最長を誇り、江戸時代に徳川家康を敬うために植樹された。
400年以上の時を経た今もその壮観さは変わらず、特別天然記念物と特別史跡の両指定を受ける唯一の遺産である。

もう一つは「コウシンソウ自生地(庚申山)」で、タヌキモ科の小型食虫植物が自生する珍しい地。
標高1800メートル前後の岩肌に咲く紫紅色の小花は可憐で、男体山や袈裟丸山など限られた地域にのみ見られる。
また、宇都宮市の「大谷磨崖仏」も特別史跡に指定されており、柔らかい大谷石の岩壁に刻まれた十体の仏像群は圧倒的なスケールを誇る。

周囲の「大谷奇岩群」も国の名勝として指定され、自然と信仰が融合した独特の景観を形成している。

百選の名所──桜・滝・城が語る栃木の風雅
栃木県は、数々の「日本百選」に名を連ねる景勝地を有している。
まず「日本さくら名所100選」には、栃木市の「太平山県立自然公園」と宇都宮市の「日光街道桜並木」が選ばれている。
太平山では春になると約4000本の桜が山を覆い、眼下に関東平野を見渡す大パノラマが広がる。
日光街道桜並木は全長16kmにわたって続く桜のトンネルで、江戸時代から続く街道美が現代にも息づいている。

「日本の滝百選」には、華厳の滝に加え「霧降の滝」が選定されている。
霧降の滝は落差75メートル、二段構造の段瀑であり、水が岩肌を滑り落ちる際に霧のような飛沫を上げることからその名が付いた。
初夏の新緑と秋の紅葉、どちらの季節も幻想的な光景を見せてくれる。

城跡では、足利市の「足利氏館(鑁阿寺)」が日本百名城に選ばれている。
鎌倉時代の武士住宅の構造を残す貴重な遺構で、四方を堀と土塁で囲まれた寺院形式の館は、現在も中世の趣を色濃く残す。

続日本百名城には佐野市の「唐沢山城」がある。
関東七名城の一つで、戦国時代には上杉謙信の猛攻を十度も退けた堅城として知られる。
山頂の石垣群と本丸跡からは関東平野を一望でき、戦国ロマンを感じる名跡である。
名刹と温泉──信仰と癒しが交わる旅路
栃木県は名刹と温泉の宝庫である。
日光東照宮を筆頭に、歴史的寺社が県内各地に点在している。
温泉地では、那須温泉・塩原温泉・鬼怒川温泉・川治温泉・日光湯元温泉が知られる。
那須温泉は開湯1300年の歴史を持ち、那須岳(茶臼岳)の山麓に広がる高原リゾートとして発展した。
那須湯本には硫黄の香りが漂う源泉かけ流しの宿が並び、那須高原のレジャー施設や美術館とも連携して四季を通じて賑わう。
塩原温泉は「日本二十五勝」に選ばれた温泉地で、箒川沿いに点在する11の温泉郷から成る。
渓谷沿いの吊り橋や紅葉が美しく、古くから文人墨客に愛された。

鬼怒川・川治温泉は北関東屈指の規模を誇り、年間200万人以上が訪れる観光拠点だ。
渓谷を見下ろす露天風呂と大型旅館が並ぶ光景は壮観である。

一方、奥日光の「日光湯元温泉」は標高1500メートルに位置する高地の湯。
静寂と湯煙に包まれ、都会の喧噪を忘れる癒しの場である。

また、花の名所として鹿沼市の「磯山神社」はアジサイの名所として有名で、梅雨時には青紫の花が境内を彩る。
足利市の「足利フラワーパーク」は、藤の花の名所として世界的にも知られ、夜間のライトアップは幻想的な美しさを誇る。

その他の観光地──自然と文化が融合する栃木の魅力
近年、観光客に人気を集めるのが「東武ワールドスクウェア」(日光市)である。
世界の著名建築を1/25スケールで再現した屋外博物館で、清水寺からエッフェル塔まで、140以上の建造物を一度に見学できる。

また、大田原市の「なかがわ水遊園」は淡水魚をテーマにした全国でも珍しい水族館で、那珂川の生態系を体感できる教育的スポットだ。
そして県北の那須岳では四季折々の登山や紅葉、スキーなど自然体験も豊富である。
那須ロープウェイから望む関東平野の大展望は圧巻で、栃木県のもう一つの顔を見せてくれる。

このように、栃木県は歴史・自然・文化・温泉が絶妙に調和する“関東の宝石箱”である。
日光の荘厳、那須の爽快、鬼怒川の温もり──そのすべてが旅人を魅了し続けている。

(外部リンク)栃木県のホームページ
(外部リンク)栃木県観光物産協会「とちぎ旅ネット」
















