瀬戸内海に面した広島県は、海と山が織りなす自然美と、平和を象徴する世界遺産、そして古より人々が築いた歴史文化が共存する地である。
海上に浮かぶ神殿・厳島神社、原爆ドームの静寂、帝釈峡や三段峡の渓谷美、そして尾道や鞆の浦の古い町並み。
どれも広島という名を世界に刻む魅力的な観光地である。
本稿では、広島県の名所・名刹・百選を地図とともに紹介し、瀬戸内の輝きと歴史の深みを伝える。
広島県の観光。世界遺産と日本百景の宝庫、定番と穴場──厳島神社・原爆ドーム・帝釈峡・鞆の浦。瀬戸内の島々に名刹と絶景

世界遺産──厳島神社と原爆ドーム、平和と信仰が交差する場所
広島県には二つの世界遺産がある。
一つは、広島市の中心に位置する原爆ドーム(広島平和記念碑)だ。
1945年8月6日、人類史上初の原子爆弾が投下され、街は壊滅的な被害を受けた。
爆心地に近い旧広島県産業奨励館は奇跡的に外壁を残し、今も当時の惨禍を伝える。
世界遺産登録は1996年。
「核兵器の廃絶と恒久平和への願いを象徴する遺産」として、国内外から多くの人々が訪れる。
周囲には平和記念公園や資料館が整備され、祈りと希望の地となっている。

もう一つは、瀬戸内海に浮かぶ厳島(通称・宮島)にある厳島神社である。
593年に創建されたと伝わるこの神社は、海上に建つ朱塗りの社殿が潮の満ち引きに合わせて姿を変える美しさで知られる。
寝殿造の社殿群と大鳥居は、平安時代の美意識をそのまま現代に伝える建築遺産であり、世界文化遺産に登録された。
満潮時には海に浮かぶように見え、干潮時には歩いて鳥居の下まで行ける。
背後にそびえる弥山も信仰の対象とされ、古来より「神の島」として崇められてきた。

この二つの世界遺産は、悲劇と祈り、破壊と再生という対照的なテーマを内包しながら、広島という土地の精神を象徴している。
名勝・百景・特別史跡──帝釈峡・三段峡・厳島・鞆の浦
広島県北東部にある帝釈峡(たいしゃくきょう)は、石灰岩の地層を浸食して形成された全長18kmの渓谷で、国の名勝および日本百景にも選ばれている。
天然橋「雄橋(おんばし)」は長さ90m・高さ40mと日本最大級で、帝釈峡の象徴的存在である。
秋には紅葉が渓谷を染め、カヌーや遊覧船から眺める景観は息をのむ美しさだ。

同じく日本百景に選ばれている三段峡は、安芸太田町にある全長16kmの特別名勝。
水墨画のような渓谷美を誇り、春の新緑、秋の紅葉、冬の氷瀑と四季折々の表情を見せる。
「猿飛」「二段滝」「黒淵」などの名所を巡る遊歩道は人気のハイキングコースだ。

尾道市の千光寺山は文学と景観が融合する場所として知られる。
山頂からは尾道水道や向島を一望でき、瀬戸内の多島美が広がる。
周辺には志賀直哉『暗夜行路』など文学碑も点在し、文化の香り漂う街並みが残る。

さらに、竹原市の忠海海岸も日本百景の一つ。
波静かな瀬戸内の入江に白砂青松が続く風光明媚な海岸線で、かつて潮待ち港として栄えた風情を今に伝えている。
そして、広島湾に浮かぶ厳島は、世界遺産・特別名勝・特別史跡・日本三景のすべてに名を連ねる。
古来より神が宿る島として人々の信仰を集め、平清盛の庇護によって海上社殿が整えられた。

また、江戸期の儒学者・菅茶山によって開かれた廉塾ならびに菅茶山旧宅(福山市)も特別史跡に指定されている。
学問と人間教育の場として高く評価され、文化史的にも重要な遺跡である。

日本二十五勝には、古代港町の風情を残す鞆の浦(とものうら)が選定されている。
万葉集にも詠まれた古い港町で、坂本龍馬が滞在した「いろは丸事件」の舞台としても知られる。
今も江戸期の町屋や常夜燈が残り、映画やドラマのロケ地として人気が高い。

百選の絶景──渚・滝・城・桜に映える広島の四季
広島県では、「日本の渚百選」に桂浜(呉市倉橋島)と恋が浜(上蒲刈島)が選ばれている。
桂浜
どちらも瀬戸内海の穏やかな波が打ち寄せる美しい砂浜で、白砂と松林が織りなす風景はまさに日本的な海辺の原風景だ。
特に恋が浜は“恋人の聖地”として整備され、夕暮れ時には幻想的な光景が広がる。
「日本の滝百選」に選ばれているのは、三次市の常清滝(じょうせいだき)である。
落差126メートル、三段に分かれて流れ落ちる壮大な滝で、夏は涼を求める人々で賑わう。
紅葉期の美しさは圧巻で、広島県随一の滝として名高い。

「日本さくら名所100選」には、庄原市の上野公園と尾道市の千光寺公園が選出されている。
上野公園は備北丘陵の高台に広がる自然公園で、満開時には約1000本の桜が一斉に咲く。

千光寺公園は尾道水道を見下ろす絶景の花見スポットで、春の海と桜のコントラストが絶妙である。
城郭では、「日本百名城」に広島城(広島市)、福山城(福山市)、吉田郡山城(安芸高田市)が選ばれている。
広島城は豊臣秀吉の重臣・毛利輝元が築いた平城で、“鯉城”の名でも知られる。

福山城は平城だが瀬戸内海へと抜ける運河を持つ。現在の天守は1966年に再建された天守で、新幹線ホームからもその威容を望むことができる。
吉田郡山城は毛利元就の本拠地で、中国地方随一の山城跡として有名だ。
続日本百名城には三原市の三原城と新高山城が選定されている。
三原城はかつて海に面して築かれた“浮城”であり、現在は駅のホームから石垣が見える珍しい城である。
名刹・温泉・文化の香り──宮島から尾道へ
広島県には古刹や温泉も多く、旅情を深める名所が点在する。
まず、廿日市市には厳島(宮島)の対岸に宮浜温泉がある。
1964年開湯の新しい温泉だが、瀬戸内海を一望できる露天風呂からは大鳥居を望むこともできる。
穏やかな湯と海風が癒しを与える名湯である。
福山市の鞆の浦周辺には鞆の浦温泉があり、瀬戸内の島々を眺めながらゆったりと湯に浸かれる。
古い町並みと温泉宿が一体化した風情が魅力である。

また、尾道市の千光寺は、日本百景「千光寺山」に位置し、朱塗りの本堂と瀬戸内海を望む絶景が訪れる者を魅了する。
寺の境内からは尾道水道を見下ろすことができ、「恋人の聖地」としても人気を集めている。

さらに、広島県は文学と映画の舞台としても知られる。
尾道三部作や『崖の上のポニョ』のモデル地・鞆の浦など、ノスタルジックな町並みが創作意欲をかき立てる。
海・山・文化が調和したこの地は、何度訪れても新たな発見に出会えるだろう。


















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